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できるところから一つずつ

できるところから一つずつ

2010年

コスモス1月号(桑原正紀選)

カリフォルニアの葡萄取り寄せ造りしとワイン二本を友に戴く

秋の夜の光を集め色深しグラスの中のレッドワインは

赤ワイン含みて瞑る眼の奥にカリフォルニアの秋の青空

楽しみは松茸飯の炊きあがり湯気立つ釜の蓋を取るとき

十階に住みて五度目の秋深み窓の高さを雁渡りゆく



コスモス2月号(水島晴子選)

ピアニッシモの余韻の中のヨーヨー・マ眼(まなこ)を閉ぢてしばし陶然

コンチェルトのコーダはTUTTI(トウッティ)サントリーホール隈なく音に煌く

スカイプのカメラを窓の外に向け鈴なりの柿カナダに見せる(スカイプはテレビ電話)


コスモス三月号(千頭泰選)

スクランブル交差点へと踏み出せば娘の頃のわたくしとなる

むかご飯炊きて自祝す六十代の最後となれるわが誕生日

鶴ヶ岡八幡宮に奉納の絵馬に仏語の願ひも混じる

ポケットに一つ入れたる鯛焼きのほつかり温くし時雨降る夜に

もう一振り唐辛子かけ箸をとる時雨降る夜の鍋焼きうどん



コスモス四月号(宮里信輝選)

オリンピックの開会式に重なりて二月歌会の日取りをずらす

千メートル予選の切符オーダーす歩いて行けるオリンピックに 

カナダと日本、米露の旗も用意するオリンピックを見る日のために

指揮棒を振る手に明日は聖火持つ九十二歳のダル・リチャードは


コスモス五月号(仲 宗角選)

夫よりの連絡電話テキパキとたつた三十五秒で切れぬ

沿道にざわめき起こりゆらゆらと踊る聖火の焔見え初む

日本とカナダの国籍持つ五歳国旗も二つためらはず振る


コスモス六月号(柏崎驍二選)

「雪がねえ・・・」挨拶のごと言ひ交はすオリンピックが間近な町に

わが愛車トヨタカムリに取り付けるオリンピックのマークの小旗

アイスホッケー金メダル戦応援す町の広場の大画面見て

延長で決勝点が入ったぞ! 知らぬ人ともハグ、ハイタッチ

「オーカナダ」国家を歌ひ小旗振り人々はまだ広場を去らず

クラクション高く鳴らして祝ひ合ふ「金メダル戦カナダが勝つた!」


コスモス七月号(杜沢光一郎選)

過ぎ行ける春の嵐のエピローグくきやかに二重の虹が顕ちたり

穏やかな暮らしは性に合はぬらし世に抗ひつつ夫元気なり              

忘れゐし夢の残像見る思ひ子供の頃の家族写真は

「生れたら死ぬのは自然」と酌み交はす通夜に集まる同級生ら



コスモス八月号(狩野一男選)

人波を縫ひて急げる夫を追ひ見失ひたりまた見つけたり

月毎に楽しみてゐし日航の美術カレンダー今年は来ない

市役所の庭に菖蒲の開く頃へザー街には黄花藤咲く

桜咲く頃に苦しき花粉症 花水木のころ楽になりくる


コスモス九月号(森重香代子選)

気が付けばハイブリッド車増えてをり我がマンションの駐車場にも

ひそやかにまた細やかに少年が恋するごとくノクターン弾く

仲良くて元気で暮しもほどほどの証なるべし錫婚旅行



コスモス十月号(小島ゆかり選)

透明なビニール傘に落ちる雨レンズのやうに青葉を映す

赤飯の蒸かしあがりて湯気白し 今日で双子は三歳になる

両翼を大きく広げ羽ばたけば子鷲の体少し浮きたり

羽搏けば体が浮くと気付きたる子鷲が声を張り上げて鳴く


11月号 桑原正紀選

キーボードぽつぽつ打てば航空券(チケット)が買へてしまへりゲームのやうに

青空の高く広がる七月のダラス午後四時三十九度

「Kim(キム) !」と呼び「Noriko(ノリコ)!」と呼ばれ子の妻とわが交はすハグややアメリカン

耳を立て尻尾も立てて勇を奮ひ仔猫ピッピがそろそろと来る

古稀といふ魔物コキコキ近付きて同級生を次々喰らふ


12月号 水島晴子選

ゲレンデに秋の風吹き白に黄に泡立つごとく野の花が咲く

小さきも大きも同じ十五ドル 列なす人に鮭が売られる

銀色に鱗の光る鮭一尾袋にずしり持ち重りする

隣家もわが家も今日はバーベキュー埠頭に買ひし鮭を捌きて




バンクーバー歌会

1月
SEEの過去をSAWEDと言ふのが口癖の三歳今日も直されてをり

2月(題詠 塩)
バス・ソルト多めに入れて暖まる今年が去年に変る夜更けを

3月
金メダル獲れたる時は「君が代」を誰もが異議を唱へずに聴く

4月 (題詠「ブランコ」)
もう子らの乗らずなりゐしブランコを庭に残してカナダに来たり

5月 
「オジイチャンの髪がむかしは黒かった」古き写真に五歳が見つく

6月 (題詠「洗」)
八センチ私の背が低すぎて洗ひ物には踏み台が要る
 
7月 
〈お得意〉な箇所はどんどん走りだす少年のひく「郭公ワルツ」

叱られる声もそのまま聞こえくる隣の部屋のピアノ練習


8月 (紫式部の身になって詠う)

障害と謎あればこそ燃え上がる愛と信じて筆を進めき

わが書きし光源氏の物語 読まれ読まれて育ちゆきたり


9月

「迷ふのはどちらでもよいことだから早く決めろ」と父が促す  

「苦しいなんて男の言へる言葉か!」と見栄に徹して父は逝きたり 


10月(題詠「巻く」)

太巻きに入れれば菠薐草も食む野菜嫌ひの六歳児だが

切らぬまま太巻きを食む六歳児かぶりつきては鏡見にゆく


11月

「老い母」と七十五歳を詠みしこと七十歳の今に悔いをり

人たるを略しはじめて七十歳 真夜を起きたり 昼寝をしたり



12月(夜霧)

硝子戸にしつとり迫る夜の霧 繭のごとくに我が家をくるむ

亡き人にふと逢へさうな霧の夜 テレビの画像時に乱れる



ニッポン全国短歌日和(NHK)春

題詠「耳」
折りをりに「福耳だぞ」と威張りゐき耳たぶ大き明治生まれは(アーサー・ビナード選者賞)

題詠「地名を詠み込む」
舗道に立つ陽炎をおどらせてバンクーバーに聖火が燃える(予選通過)


コスモス全国大会

二本目の乳歯ぐらぐら動きだし六歳今日は少しナーバス

題「海」
七月の海に入ればその冬は風邪をひかぬと祖母の言ひゐき



明治神宮歌会

もう一人同級生が捕まりぬ 古稀の奴につかみかかられ






Gusts No.11 (Tanka)

Under her last breath,
she whispered “thank you”
to her husband:
almost inaudible words
but a precious jewel left for him


Standing still in front of TV
our whole family
joined the world
for one minute of silence
in memory of the Georgian luger


Gusts No.12 (Tanka)

A pair of cardinals
flew down to our feeder
the male, with brilliant red feather,
being more cautious and hesitant
than his hungry mate


When I said
"I will be SEVENTY soon"
my four years old grandson
gasped and gazed at me
..... as if looking at an ALIEN


seemingly happy
my son and his wife live
a "smart" American life
with no kids, double income
keeping two black kittens


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